客室乗務員(CA)といえば、キラキラの笑顔と身にまとう華やかな空気……皆、一様に美しく輝いています。本連載では、ライターの木村衣里がAIRDOの客室乗務員訓練の一部を体験、その美しさの裏に秘められた努力や訓練の厳しさをレポートします。
みなさんこんにちは。ライターのきむら いりです。
前回は、客室乗務員としての身だしなみへのこだわりや、こと細かに決まりがある理由などをご紹介しました。
今回はもう少し実際のお仕事に近づき、接遇マナーやアナウンスについて教えてもらいましょう。
ちなみに冒頭の写真は「礼三息(れいさんそく)」と呼ばれる、美しいお辞儀の仕方を練習しているところ。息を吸いながらお辞儀をし、止まったところで息を吐いて、再び息を吸いながら元の姿勢にもどります。こうすることで自然と背筋がピンと伸びた、キレイなお辞儀ができるのだとか。
ご指導いただくのは、前回から引き続き飯島佳代さんです!
そうですね。正しい立ち姿やお辞儀というのは、本来であれば体への負担も少なく疲れにくいものなんですよ。ただ、普段から正しい姿勢を意識していない方は、「いつも使っていない筋肉」を使うことになるので、慣れるまでは多少キツイと感じるかもしれませんね。
逆に言うと、いつもはめちゃくちゃな姿勢してるってことですね……。客室乗務員の方というと、所作の美しさからも「接遇のプロ」という印象があるのですが、やはりなにか特別な訓練をしているんですか?
努力は大切ですが、特別なことはありません。 大切なのは、多数の方に通じる見識をしっかり持ち合わせていることです。 言い換えると「常識力」でしょうか。 機内ではさまざまなことが起こります。私も反省ばかりですが、それを対応する私たちの見識がぶれてはいけないんです。接遇の基本もそこにある気がします。
「常識力」ですか。
たとえばですが、機内でネイルを塗ることや、お化粧直しをすることはどう思いますか?
さすがにネイルはだめじゃないでしょうか。けっこう臭いですし。
そうですね。化粧直しについては、さまざまなお考えの方がいらっしゃるため、幅を持って考える必要があります。
たしかに……つい最近も「電車の中での化粧直し」についてネット上でさまざまな意見が飛び交っていました。
見識というのは時代や年齢によっても変わるものではありますが、客室乗務員というのは物事を「世の中の常識」で捉え、行動できるかどうかが問われる仕事だと思います。
お客さまの命を守る安全のための実演案内
では木村さんも安全の実演案内やアナウンスなどをやってみましょう。その前に、まずはライブデモの見本をお見せしますね。
※最近では説明動画が流れるため、実演が行われることはほぼなく、機材トラブルなどで再生できない場合にのみ実施されるのだとか。
この動き、むかーし乗った飛行機の中で見たことあります! みんなの動きがきっちり揃っていてすごいな~と思ったのを覚えてます
ありがとうございます。木村さんがおっしゃるように、ここでも「統一美」は欠かせないものなんですよ。客室乗務員の動きが揃っていると、それだけでお客さまに注目していただけます。実演案内を見ていただくことがそのままお客さまの安全につながる、といっても過言ではないくらい重要なんですね。
あくまで第一優先はお客さまの安全ですから、通常の訓練でも「安全の実演案内」や「キャビンウォッチ」といった機内の監視業務などを先に学びます。まずは保安要員としての業務内容や知識をしっかりと身につけ、そこからプラスアルファのサービス面を磨いていくんです。
ライフベストの膨らみが足りない場合はふーっと息を吹き込みましょう。
シートベルトの着脱方法や緊急時の酸素マスクの使い方、ライフベストの着用方法など動きが細かいものが多く、全部を完璧に覚えるのはなかなか大変そうです……。
機内の平穏をまもるキャビンウォッチ(機内監視)
キャビンウォッチの際に客室乗務員が見ているのはどういう部分だと思いますか?
声をかけたそうにしている人がいないか……ですか?よく「毛布ください」とか「イヤホンください」とお願いされているところを見かけます。
そうですね。サービス要員としてもそうですが、保安要員としての巡視も兼ねています。
キャビンウォッチの際は、目で見るだけではなく、五感を使っているんですよ。たとえば、お客さまの顔色や様子の変化、手荷物の数や大きさ、エンジンオイルなどの異臭がしないか、エンジン音の確認など多岐に渡ります。五感をフル活用してさまざまな情報を集め、安全運航に繋げています。
目で見て音を聞いて……常に神経を研ぎすませながら仕事しているんですね。
顔色が優れない方がいらっしゃる場合、上空に行くと、どうしても気圧の関係で体調は悪化してしまう傾向があります。そのため、 本当にそのお客さまと飛行機を安全に目的地へお届けできるかどうか、保安要員としてさまざまな視点からチェックする必要があるんです。
客室乗務員は常に、「多数の安全」>「少数の安全」>「多数へのサービス」>「少数へのサービス」の優先順位において物事を判断しています。
飛行機はあくまで公共の乗り物ですので、体調不良の方も考慮しつつ、飛行機全体の運航や他のお客さまのことも考えなくてはいけません。飛行機を出発させることを優先するのか、搭乗をお断りするべきなのか、場合によっては機長と相談することもあります。
安全な運航を担保するためには、さまざまな可能性を考慮して即座に判断をくだす必要がある……。訓練を通してその判断力を磨いているんですね。
飛行機のドアが閉まった、ということは「100%安全に出発できる」という合図でもあります。飛行機には1%の不安要素も乗せてはいけないんです。
そう考えると、飛行機の出発が多少遅れても気にならなくなりそうです。数十分の遅れよりも、安全に運航してくれるほうがわたしたちにとってもいいはずですし。
情報と感情を伝えるPA(アナウンス)訓練
では次に、PAをやってみましょうか。
PA……??
はい。PAとはいわゆるアナウンスのことです。通常の会話とちがいお客さまに大切な情報を伝えるものです。もちろん棒読みになってはいけませんし、顔が見えないぶん声に心を乗せることを意識しましょう。
まずは飯島さんのお手本から!
おおおおお!!!
すごい、ホンモノだ……!(あたりまえ)
「うわ、これ聞いたことあるわ〜」というのが正直な感想です。
ありがとうございます(笑)。では、木村さんも同じようにやってみましょう。大事な情報の前にポーズ(空白)を入れてあげると、より聞きやすく伝わりやすいアナウンスになりますよ。
う〜ん……??
全体的に声のトーンが低いし、言葉も途切れ途切れになってしまった気が……。
というより、録音された自分の声を聞くのってすっごい違和感!!
木村さんって、わりと几帳面な性格ではないですか……?
えっ!なんでわかるんですか?人からはよく「きっちりしすぎ」って言われます。
どうやら言いにくい文章や言葉の部分にポーズをおくクセがあるようなので。この特徴がある人って、几帳面な人が多いんですよ。
ものの数十秒でそこまでわかっちゃうんだ……すごい。
あと、木村さんは滑舌があまり良いほうではないですね。とくに口が縦にあかないので、「あ」の音が苦手なようです。また、「座席にお戻りになり」の「りに」の音が、つぶれてしまっていました。
アナウンスの際は口を縦に開くことが大事!
(滑舌、よくないのかぁ……)
改めて飯島さんのアナウンスを聞いてみると、「お戻りになり」の言葉の明瞭さが際立ちますので、ここでもう一度どうぞ!
おおおおお!!
あたりまえだけど、プロってすごい。
情報を正確に伝える以外にも、タービュランス(揺れのアナウンス)の場合には安心感を与える声色に変えたり、間の取り方ひとつでお客さまの耳に残るかどうかや与える印象が決まります。
華やかに見える笑顔の裏側では、客室乗務員は常に機内とお客さまの安全を守るため、細心の警戒を怠ることなく業務にあたっているんですね。
まとめ
最後に、客室乗務員にまつわるプチトリビアをまとめてご紹介したいと思います!
- みんな早食いになる。
- 夏場、街中で黒色ストッキングを履いている人は客室乗務員かも?
- ホテルではまず非常口の場所を確認してしまう。
- 自分が接客を受ける際には、つい店員さんの挙動を目で追ってしまう。
- 飛行機の揺れで鍛えられているので、電車が多少揺れても微動だにしない。
みなさんが飛行機に乗る際に、ほんのちょっとでも「客室乗務員さんは自分たちの安全を第一に考えて行動してくれてるんだなぁ」と思い出してもらえたらうれしいです。
次回は、実際の飛行機の機体を使ったドリンクサービス訓練に密着予定です(客室乗務員デビュー前の訓練生も登場するよ!)。
それでは!
書いた人:きむら いり
北海道函館市出身。プレスラボ所属の編集/ライター。企画したり取材したり執筆したり編集したり。動物が好きで、この世で一番愛らしいのはカバだと思っています。
Twitter:@i_s_ooooo
飯島さん、正しい姿勢でお辞儀しようとするとけっこう疲れるんですね……。まだ1回しかやってないけど、背中がプルプルします。