北海道にある「セイコーマート」というコンビニエンスストアをご存知でしょうか?
オレンジの看板に鳥のマーク……。
北海道の広い青空の下を車で走っているといたるところで見かける「セイコーマート」は、北海道民にとってなくてはならない存在だそう。
略称も「セイコマ派」と「セコマ派」で分かれ、時に論争が起こる……というほど愛されています。
じつはこの「セイコーマート」、大手コンビニも勝てないコンビニとしてよくメディアに取り上げられているのです。
……正直、北海道以外に住んでいれば「セイコーマートなんて聞いたこともない」のが本音。けれど、この北海道のコンビニにはとてつもない情熱が隠れていました。
「とにかく品数が多い!」店内調査へ
まずは「セイコーマート」を知らない人のために店内をざっとご紹介。
まず目に入るのは、お惣菜の数々。
「山菜のきんぴら炒め煮」「たらこ」「酢いか」「北のポテトサラダ」「セロリ漬しそ風味」……種類がかなり豊富です。
なんとこれらは半分以上がほぼ100円。しかも無添加の商品も多い。
安い……。
ワインをはじめとして、お酒だけで棚をひとつ占領するほどアルコール類も品数が豊富。
カップ麺も安い。そして種類もたくさん。
けれど……、見たことのない商品ばかりです。
アイスの数も多すぎでは……?
メロンのアイスだけで商品がずらり……。
また“ホットシェフ”と呼ばれる店内調理のお弁当販売もしていました。
これらすべて店内で調理をしています。
一番人気はカツ丼(税込490円)。
(※関東・北海道の一部の店舗では価格が異なります)
出来たてが食べられるのであたたかくて美味しい。それにかなりボリュームもあって、お財布にも優しい。
はじめてセイコーマートに行った感想は、
・品数が多すぎる!
・見たことがない商品だらけ!
・安い!
の三拍子。
たしかに特徴的だけれど「大手が勝てない」とは一体どういうことなのでしょう……?
「大手も勝てないコンビニ」の真相を本社で聞いてきた
ということで伺ったのは北海道札幌市にある株式会社セコマ。
「大手も勝てないコンビニ」の真相について伺ってみました。
今回お話を聞かせてくださったのは、マーケティング企画部 部長の佐々木威知さん。
顧客満足度NO.1!? 日本で最初にできたコンビニ!?
:早速ですが……。セイコーマートさんは、“大手も勝てないコンビニだ”と伺ったのですが……。
:勝てない、というのが正しい言い方かはわからないですが、コンビニエンスストアの中で顧客満足度全国1位(※)に選んでいただきました。
※JCSI(日本版顧客満足度指数)のコンビニエンスストア部門のこと
:えっ、全国1位! 大手のセブンイレブンやローソンなどを抑えて1位ですか?
:そうですね。6年間調査されているのですが、私たちは今までで5回も1位に選んでいただいています。昨年セブンイレブンさんに負けてしまったんですが、5勝1敗とまぁまぁいい成績を残しています。
:すごいですね……! 失礼ながらセブンイレブンさんのほうが凄そうなイメージがありました。
:そうですよね。私たちはあまり知られていないので……。でも、じつはセイコーマートは日本で最初にできたコンビニの1つで、歴史も古いんですよ。
:えっ!!! セイコーマートが日本で最初にできたコンビニ……?
:そうなんです。知らないですよね(笑)。
:はい……。じつはセイコーマートって北海道に来るまで聞いたことがなかったんです……。
:私たちの発祥について少しお話しさせていただきますね。
「コンビニ」という言葉がなかった頃に、一軒一軒説得した
:セイコーマートのルーツは、もともと酒の卸売を商売としていたんです。それがなぜコンビニをはじめたのか、ということなんですが……。
:創業者が「このままだと小さい酒屋は生き残れない」と時代の変化を感じた時に、なんとか「小さいけれどお客さんに愛されるお店にして、将来生き残れるようにできないか」と考えたんです。
:それで、アメリカで成長していた “コンビニ”というものにしていけばいいんじゃないか、と考えついたんですね。
:そして酒屋一軒一軒に、「アメリカに“コンビニ”というものがあるんだけど、そういうものにしてみないか」と言って回ったんです。
:まだ世の中に「コンビニエンスストア」っていう言葉がなかった頃ってことですね。
:そうです。「アメリカでこういうのやってるから」って説得しようとしてもむずかしいですよね。コンビニが日本にまだ一軒もないんですから。
:最初の100店舗になるのに10年かかりました。今、45年経ってようやく1,000店舗を超えるようになったんです。最初の100店舗にするのがどれだけ難しかったかが伝わってきますよね。
:10年で100店舗……。そのペースでしか増えないのに曲げなかった信念がすごいですね。
:そうですね。創業者は「コンビニ」を信じていたんでしょうね。
:そうしてセイコーマートがコンビニを始めたのが1971年。そのあとセブンイレブンさんが1974年に日本でコンビニを始めました。
:セイコーマートさんが一番はやかったんですね。
:はい。そうやって酒屋がコンビニとなってうまく生き残っている様子を見て、地域の酒の卸売の人たちが同じようにはじめたいと言ってくれて、埼玉や茨城やその他にいくつかできたんですよね。
:それで今では、セイコーマートは1,080店舗に増え、北海道内では一番多いコンビニなんです。北海道内179市町村あるなか173市町村に出店しています。
:一軒一軒回っていって、今では1,000店舗超え……ですか。すごいですね。
:北海道以外だと、現在は埼玉と茨城だけで、東京には店舗はないですよね?
:そうですね。関東圏にある店舗は「出店するぞ!」といって出したわけではなく、当時同じことをしたいと言った人たちのおかげで残っている、という感じですね。
:ふーむ。でもどうして東京にはお店がないんですか?
:そこまで北海道で店舗を増やしてきて人気も高まってきたのなら、東京にも進出するぞ! となりそうですが……。
:うーん……。
:多くの人に知られることがいいことなのかどうか、というのはよく考えないといけないことなんです。
:なるほど……? 詳しく教えてください。
大手と戦うための戦略「北海道から出ない」
:私たちのようなコンビニが大手と戦うのは大変なことなんです。特に私たちは、セブンイレブンさんが北海道に進出してきてからというもの、ずっと喧嘩をしているんですが……。
:喧嘩って(笑)。
:そりゃあ競合店が出てきたら、戦っていかないと。
:大手と戦うというのは、言ってみればものすごく身体が大きくて体格のいい人に、すっごくちっちゃい人が喧嘩を売るようなもんですから。勝つには知恵を使わないといけないんです。
:そこで私たちが考えたのが、負けないために北海道を出ないという戦略なんです。たくさんの方に知っていただけるのはいいことですが、「希少価値」を大事にしていく必要があります。あそこにいかないといけない、買えない、という希少価値がブランド価値を高めるんですよね。
:だからどんどん店を増やせばいい、と私たちは思っていません。
:なるほど。むやみやたらに手を広げればいいというわけではない、と。
:そうです。それと同じ論理で「一般的にコンビニがやっていることをやらない」ようにもしていますね。
:セイコーマートには、「おでん」も「ドーナツ」も置いてないんですよ。
:えっ! 特におでんなんかは冬のコンビニの代名詞なのに……!?
おでんもドーナツも無し。他のコンビニがやっていることはやらない
:おでんやドーナツは他の大手のコンビニがやっていることじゃないですか。だから私たちはやらないんです。
:おでんを食べたいんだったらセブンイレブンさんへどうぞ、ドーナツ食べたいんだったらローソンさんへどうぞ、と私たちは思っています。
:それだとお客さんを逃してしまいそう、と素人は思ってしまうんですが……。
:でも、同じ商品がセブンイレブンさんにもローソンさんにもあれば、やっぱりお客さんはブランド力あるお店のほうに行ってしまうんです。二番目にやったことが、本家を超えて一位になるってことはなかなかないですよ。
:なるほど……。逆にセイコーマートさんがやりはじめたことを大手に真似されちゃうことはないんですか?
:たくさんありましたよ。でもさっきの話の逆なんです。私たちが先にやってるから、後からやり始めても、「セコマと一緒だね、セコマにあるよね」というかんじで結局「セイコーマートにあるアレ」としかならないんです。
:そっか……。じゃあ、いくら流行っているからって真似たり媚びたりする必要はないってことなんですね。
:そうですね。結局大事なのは、いかに特徴作りをするかってことなんです。
:「おでんはない」とか「ドーナツはない」とかそういう「無い」を作るのも特徴作りの一環ですよね。一方、「これを買うならセコマに」という特徴をいくつ持てるかというのはもちろん課題で。
:あの商品と言ったらセコマ。というものをいくつ作れるか、をいつも考えていますね。
:なるほど……。でもそれを作るのが難しいんじゃないでしょうか。
:もちろんです。そこで私たちが“北海道から出ない理由”が活きてくるんです。
:私たちは北海道に本社があって、店も主に北海道にありますよね。だから地域の事情をよく知っているというのが最大の特徴だと思っているんです。
地域の事情に精通しているからこそできるブランド作り
:たとえば私たちがこだわってきたことのひとつに「価格の安さ」があるんですが、これも北海道の事情をよく知っているからならではなんです。
:北海道の事情をよく知っているから?
:ええ。東京の所得と北海道の所得を比べた時に、やはり経済格差があるんです。だから東京の水準で値段をつけてしまうと、北海道の人が買いにくくなってしまう。
:だから1円でも10円でも安く販売するっていうのは「北海道のお店」としてやらなきゃいけないことなんです。
:そうか……。闇雲に安さを追い求めているわけではなく「北海道で店をやるなら」というしっかりとした理由があったんですね。
:安さの仕組みはどういう風に作られているんですか……?
:私たちは、製造から関わっているんです。北海道で作られたものを使って、私たちの工場で製造して、お店に流通させていると。そういうプライベートブランドのおかげで安さは維持できていますね。
:そしてもちろん「安い」だけでなく、同時においしさも追求する必要があります。
:知覚価値といって「こんなにいいものがこの値段で買えるんだ!」という満足感が重要で。
:北海道のものを使って、作る。ここにも手を抜かずにこだわり続けたことが、セイコーマートの満足度を高くしていると思っています。
:たしかに、お惣菜もほぼ100円で安くて、しかもおいしかったです(セロリ漬けしそ風味が大好きでした)。
60種類を超えるお惣菜。なぜそんなに製造ができるのか?
:プライベートブランドだから、という理由なら安さには納得できるのですが、お惣菜の数の多さには本当にびっくりしてしまいました。あれだけ多くのお惣菜を置こうと思った理由ってあるんですか?
:うーん。正直、お弁当選ぶのってもう飽きてませんか?
:(たしかに……)
:コンビニのお弁当って昔は選ぶのがすごく楽しかったんです。でも、今は「これも食べたくない、これもいまいち」っていう消去法で選ぶようになってしまったんですよね。
:要するに、時代のニーズにあってないんです。仕方なく買っているのであって、これが欲しい! と思って買っていないと思うんです。
:お弁当ってメインの具材は選べるけど、ほかの副材は選べないですよね。なんでここにスパゲティが……とか、こんなに唐揚げいらないなとか思いませんか?
:(わかる)
:そういうのじゃなくて今日はこのおかずが食べたい! と選べたらどんなにいいかと思ったんです。
:それでセイコーマートは、お客様と役割分担を変えたんです。今までは「お客様のために選んでおきました」だったんですが、「お客様選んでください」にしたんです。
:消費者としては嬉しいですよね。あれだけおかずが、少量でパックになってくれていたら、毎日通っても飽きないし。
:そうですね。添加物はできるだけ使わないようにしているので、2-3日しか持たないんですが、少量なのでご年配の方にも喜んでもらっています。毎日使ってもらうから少しでも安く、体によく、を大事にしていますね。
:でも作る側としては大変なんじゃないでしょうか。あれだけの商品を並べれば、消費者が喜ぶのはわかっているけれど、それでも大手が同じようなことをしていないのは「難しいから」では?
:他のコンビニではできないと思います。
:先ほども申し上げたように、製造から一貫して食品メーカーをやって流通までコントロールできるから、あの惣菜の数が作れるんです。
:あとは、私たちが1,000店舗だからできるというのも大きいですね。店舗が増えれば増えるほど、多くの店舗で売れるような材料を揃えなければいけなくなって、そうするとやっぱり品数が少なくなってしまうんです。
:そうか……店舗数が少ないことが強みとして生きてくるわけですね……。
:そうです。大きいからできないことってたくさんあるんです。私たちくらいのサイズだからこそできることっていうのがある、と。
:それを見つけて、「大きいからできないだろ!」と大手と戦っていく、という発想ですね。
:なるほど……。それにしても本当にあれだけの種類があれば、毎日食べても飽きなさそうで……羨ましいです。
北海道愛! 離島のために「ホットシェフ」を作った
:お惣菜だけじゃなくて、ホットシェフというあったかいお弁当もありましたよね。あれも安くて、しかもおいしくて。店内で調理しているから、ほかほかだし。
:そうです。ホットシェフは今80%くらいのお店に導入されていますね。
:いつごろから始まったんですか?
:1994年からです。「店内調理」を取り入れたのも、ものすごく早かったですね。
:これまたパイオニアなんですね……。なぜ店内調理を始めようと思ったんですか?
:まずひとつは、電子レンジで温めるお弁当よりも、やっぱり出来立てで作りたてのほうがおいしいじゃないですか。本当においしいものを提供したいっていう思いがひとつ。
:もうひとつが離島に出店するのに、店内調理が必要だったということです。
:離島にコンビニを作るため……?
:そうです。離島では、天候が悪いと商品が2~4日行かなくなってしまうんです。でも、店内調理ができれば、お米と食材さえあれば何日間かはお弁当が作れますよね。
:北海道の隅々までセイコーマートを届けたい! と思ったときに、どうしても“店内調理”が必要だったんです。
:離島のために……! 難しいなら出店しないとさえ思ってしまいそうなところを……、そんな風に踏み切るなんて愛ですね……。
:店内調理ができれば、北海道の隅々まで新鮮でおいしいものが供給できるんですから。お安い御用です。
:(愛だ……)
:お惣菜にしても、ホットシェフにしても、他のコンビニにはない独特の方法でコンビニ界を引っ張ってきたんですね。
:しかも実際に結果を出しているとなれば、他県からも「セイコーマート」をやってくれって声がかかりませんか?
:ありますね。「うちの地域にでてこないか」とか、地主さんが土地貸すからやってくれとか。でも「永遠にでない」とは言わないですけど、今その必要性はないと思っています。
:外に出て行くことだけがいいことではない、と思っているから……ですね……。
:そうですね。私たちはまだ北海道で戦っていきます。まだまだ「北海道」の皆さんに愛してもらう方法があると思っているし、それが私たちに残されたチャンスなんです。「おらが町のセイコーマート」になりうるチャンスがある、と。
:郷土愛、という点ではどこのコンビニにも絶対に負けてないですからね。
:なるほど……。
:ただ今後の展望として、食品メーカーとして食品を道外に出すことは考えていますね。
:食品を道外に出す?
:店舗という規模で出て行くわけではなく、ワインや牛乳や惣菜など、プライベートブランドで作っている商品を関東のコンビニにおろしたり。
:お店で進出するんじゃなくて、商品で関東に進出していこうかなとは思っています。
:あのおいしすぎるお惣菜たちに出会えるのを楽しみにしています!!
さいごに
:なんだか今日お話しを伺っていて、地域が活性化するために何が必要か、を少し考えさせられました。
:そうですか。その土地にいるからこそ地元のひとが気づけていない資源ってたくさんあるんです。「うちは過疎で」「なんにも売りになるものがなくて」って言っていても、外からみると「え、こんなのたくさんあるの?」っていうものが。こういうものを有効活用していくのが鍵かもしれませんね。
:地域でものを作ってブランド化していく。地域がプラスになって僕らにとってもいいことってなにか、という視点で考えていれば、お互いにとって良い方向に発展していくはずですよ。
:新しいものを作り上げるのは、後でいいんです。まずは地域を見つめて、そこにあるものを使って、より盛り上げていってほしいですね。
:なるほど……。今日はお話ありがとうございました。
はじめは「どうして地域のコンビニが全国1位に?」と思っていたのですが、セイコーマートさんの北海道への深い深い深い愛と流されない戦略作りが、顧客満足度につながっていることがよーく伝わる取材でした。
・顧客満足度、全国1位!
・日本で最初にできたコンビニ!
・安くて美味しくて品数豊富!
・おでんはないのに、オリジナルアイスだけで30種類ある
・他のコンビニと同じことはしないという確固たるポリシー
こんな個性的なコンビニがある北海道が羨ましくなりました。
:ちなみに、セイコーマートの鳥マークは「不死鳥」なんです。気づきましたか?
:(えっ、ハトかと思っていた)
:何度でも立ち上がってみせる! の精神でこれからも北海道のためにいいサービスを作っていきたいですね。
北海道愛が詰まったセイコーマート。見たことのない商品の数々に驚くはず。北海道に行った際はぜひ立ち寄ってみてほしいです。
それでは、またね〜!
▼北海道に行くならAIRDOで!
書いた人:さえり
書籍・Webでの編集経験を経て、現在フリーライターとして活動中。 人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。 好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。
Twitter:@N908Sa
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