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氷の宿で一晩耐えられるか!? マイナス30℃の町、陸別町の「人間耐寒テスト」に参加してみた

耐寒テスト参戦中の様子

日本全国には「奇祭」と呼ばれる変わった祭りがたくさんあります。

例えば火の点いたたいまつに飛び込む「鳥羽の火祭り」(愛知県)や、ふんどし一丁で池に入る「蘇民祭」(岩手県)などが有名ですね。

そういった奇祭のカテゴリーに入れていいのかは分かりませんが、北海道陸別町でも毎年2月に「しばれフェスティバル」という祭りが2日にわたって開催されています。

しばれフェスティバル外観

「しばれ(る)」という言葉は北海道の方言で「寒い」とか「冷え込む」といった意味。「しばれフェスティバル」をあえて言い換えるなら「極寒祭り」とでも言えばいいでしょうか。寒さを前面に出したコンセプトはちょっと変わっている気もしますが、祭りで地域の特色を打ち出すこと自体は特におかしなことではありません。なんといっても開催地は北海道ですからね。

しばれフェスティバルの様子

しばれフェスティバルでは、地元学生や芸能人も登場するステージパフォーマンスや雪で作ったアトラクション体験、雪像の設置、温かい飲食物が食べられる縁日コーナー「しばれ縁日」など、イベントや出し物が毎年盛りだくさん。

「寒いねぇ」なんて言いながら、屋台で買った温かいスープで身体を温め、雪像を鑑賞して花火を楽しむ……「ぜんぜん“奇"祭じゃないじゃん」って思いますよね。

そう、21時頃までのしばれフェスティバルは誰もが「寒さ」を気軽に楽しめる、とってもスイートなお祭りなのです。

夜のしばれフェスティバル

問題は21時以降です。

屋台は撤収し、会場の照明が落ち、ファミリーが家路に就く時間帯。

ここから、しばれフェスティバルのメインイベント「人間耐寒テスト」が始まるのです。

マルコさん

……そんなわけで説明が長くなりました。申し遅れました。わたくし、ブロガーでフリーライターのマルコと申します。今回、北海道は陸別町で開催されているしばれフェスティバルにやってまいりました。

日本一寒い町の野外で一晩過ごす「人間耐寒テスト」

陸別町の様子

冬の陸別町はマイナス30℃を下回ることもある、通称「日本一寒い町」

……マイナス30℃ってちょっと想像つきませんが、調べてみたところバナナで釘を打つのに適した気温だということがわかりました。

そんな「日本一寒い町」に全国から300名の猛者(もさ)が集い、暖房のない氷の宿で一晩過ごすという企画――それが、今回僕が参加することになった、しばれフェスティバルで夜から翌朝にかけて行われる「人間耐寒テスト」なのです。

耐寒テスト入り口

人によってはまったくもって意味のわからないチャレンジだと思いますが、この人間耐寒テストは毎年応募が殺到するほどの人気イベントでして、2018年も300名の定員に対して600名の応募があったそうです。

そんなエクストリームイベントになぜ参加しているのかというと、僕が極端な暑がりだから。編集部との打ち合わせで「東京の冬は暑すぎますよ」と愚痴っていたところ、「じゃあ日本一の寒さと勝負してきてくださいよ」ということになったのです。極端過ぎるわ!

耐寒テストの様子

……ということで、改めてこのずらりと並んだ球体をご覧ください。

バルーンマンション

これが、僕が宿泊する今夜の宿です。正式名称を「バルーンマンション」といいます。

外壁は氷でできており、おとぎ話に出てきそうなファンタジックな見た目をしています。どうやって作ったのだろうと思ったら、用意した骨組みに水をかけると一瞬で凍りついて壁が出来上がっていくそうです。……それまで陸別町の寒さがピンときていなかったのですが、この話を聞いて初めて「マジでやばいのでは?」と震えました。

しばれフェスティバル自体は16時30分に開場しますが、人間耐寒テストは21時から。僕は17時頃に到着しました。

温度

すでにバルーンマンション前に設置された部屋番号の札が凍りついていました。この後さらに氷が厚くなり、数時間後には完全に部屋番号が見えない状態に。そのせいで後から来た参加者が自分の部屋を探して右往左往する場面もあり、改めてむちゃくちゃな寒さなんだなという実感が湧(わ)いてきました。

とはいえ、人間耐寒テスト開始はまだ数時間後。それまではファミリーでも気軽に参加できるしばれフェスティバルを楽しみましょう。

縁日の食事で体を温め、「命の火」で暖を取る

しばれフェスティバルの様子

本能が「今のうちに温かい物をいっぱい食べておけ!」と命令するので、会場内のしばれ縁日で欲望のままに、ラーメン、カレーライス、フランクフルトなどを貪(むさぼ)りました。

しばれフェスティバルの様子

北海道は屋台メシも非常にレベルが高いのでおすすめです。

しばれフェスティバルの様子

子どもも大喜びの雪のアトラクションや……

しばれフェスティバルの様子

雪をフル活用した巨大パチンコも。

しばれフェスティバルの様子

そして、しばれフェスティバルのシンボル、その名も「命の火」。

しばれフェスティバルの様子

組み上げられた大量の薪に火がつけられ、一晩中燃え盛ります。

人間耐寒テストが始まると、屋台や照明は消えてしまいますので、この「命の火」が唯一の拠り所になります。文字通り「命」を守る火です。

しばれフェスティバルの様子

祭りの初日を締めくくる「しばれ花火」が終わり、「寒かったね〜」なんて言いながら多くの人が家路に就く中、人間耐寒テストに参加する僕らはここからが本番です。

いよいよ人間耐寒テスト開始

しばれフェスティバルの様子

ほとんどの挑戦者はグループで参加しており、バーベキューを楽しんでいます。人間耐寒テストは脱落者も続出する過酷なチャレンジですが、仲間といろいろな話をしながら食べたり飲んだりするのはすごく楽しそう。


……が、一人参加の僕はまず、先ほどのバルーンマンションへ戻ることにしました。

ここで、バルーンマンションについて詳しく紹介します。

耐寒テスト

バルーンマンションの入り口はかなり狭いので、常に女豹のポーズをとらなければ出入りができません。正直、結構大変なのですが、入り口が大きいと吹き付ける風で凍死しそうなので仕方ありません。

耐寒テスト

中をのぞくと、ダンボールと薄い発泡スチロールのシートが無造作に敷かれているのが見えます。

しばれフェスティバルの様子

そう。

人間耐寒テストは究極の寒さの中で一晩過ごすという「挑戦」ですから、暖を取れるものなど用意されているわけがないのです。

また、一酸化炭素中毒、および氷が溶けてマンションが崩れるというシャレにならない事態を防ぐため、バルーンマンション内での一切の火の使用は禁止されています。

つまり、マイナス30℃の中、身体一つで眠らなければならないのです。

しばれフェスティバルの様子

今回の挑戦にあたり、マイナス30℃のイメージがまったくつかめていなかった僕は「かなり暑がりだし、あまり防寒すると逆にのぼせるかも」と考えて、普段の冬服で参加しようかと考えていました。ちなみに僕の「普段の冬服」とは、Tシャツ+ニット+薄手のジャケットといったところ。今回はそれにダウンジャケットと手袋ぐらい追加しとけばいいかな、と。

しかし、Twitterなどで情報を集めたところ、「死にますよ」と本気で心配されたため、慌ててアウトドアショップを駆け巡り、本気の耐寒装備を整えて挑んだ次第です。

しばれフェスティバルの様子

参考になるよう記しておくと……今回の挑戦のために購入したのは、メリノウールという素材の肌着の上下、フリースのジャケットとロングパンツ、オーロラ観測にも耐え得るという極寒仕様のアウターとパンツ、防水で二重の手袋と防水防寒靴、極厚手の靴下、ウールのニット帽、フリース素材のネックウォーマー。そして寒冷地仕様の寝袋と断熱シート。

……要するに全身すべてそろえました

アウトドアショップの皆さん、その節は「マイナス30℃で一晩過ごすのに耐えられる服を教えてください」という突然の相談に乗っていただきありがとうございました。

しばれフェスティバルの様子

そんな感じで、自分なりに完璧な装備を整えたつもりだったのですが……それでも寒さが足元から這い上がってきます。これが陸別町……これが人間耐寒テスト……!

耐寒テスト

あまりにも寒かったので自販機で飲み物でも買って温まろうと思ったら、「つめた〜い」しかないという徹底っぷり。

どうしても無理ならリタイアしてもいいのですが、そうなると認定証がもらえません。認定証をもらうためには、翌朝7時まで耐え抜く必要があります。せっかくならきちんと成功させて凱旋したいところです。

そうこうしているうちに、深夜のイベントが始まりました。

耐寒テスト

その名も「タオル回し選手権」

水でぬらしたタオルを堅く絞り、振り回して凍らせて一番早く直立させたら優勝という、このイベント以外ではまず開催自体が難しそうな競技です。

タオルを思い切り回すので身体が温まるかと思い参加したところ、タオルを水にぬらして絞るのは素手で行うため、めちゃくちゃ手が冷えました

耐寒テスト

残念ながら優勝することはできませんでしたが、柔らかいはずのタオルが直立するのは新鮮な体験です。

なお主催者の方曰(いわ)く、「タオル回し選手権はこれまで6回開催されており、なんと世界チャンピオンが6人誕生しています!」とのことですので、この人間耐寒テストでのタオル回し選手権が事実上の世界大会ということになります。

タオル回し選手権が終わると、あとは提供されるラーメンを食べて寝るだけです。

耐寒テスト

スマホのバッテリーを節約するため小説を持ってきたのですが、手袋をしていると紙がめくりにくいという初歩的なミスを犯してしまい、ろくに読めませんでした。

命の火が燃え尽きるころ、耐寒テストも終了

耐寒テスト

外を見ると、あれだけ燃え盛っていた「命の火」がそろそろ燃え尽きそうになっています。

「“命の火が燃え尽きる”って表現はシャレにならないな……」と考えているうちに、いつのまにか眠りに落ちていきました……。

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耐寒テスト

……目が覚めると朝でした。明るい。

足元から上ってくる冷気のせいで夜中に何度か目を覚ました気がしますが、アウトドア用ウェアのパワーと寒冷地仕様の寝袋のおかげで、何とか一晩過ごすことができました。

ここまでガチガチの装備を整えて挑むのは記事的に面白くないと思われるかもしれませんが、一晩過ごした今、はっきりと言えるのは、あえて軽装でネタに走る余裕は微塵(みじん)もなかったということです。え? 暑がり? 何のこと?

耐寒テスト

朝から雪が降る中、耐え抜いた挑戦者全員でラジオ体操。

耐寒テスト

そしてついに、人間耐寒テストを耐え抜いた認定証を手に入れることができました。

この後、参加者には朝食温泉がサービスとして用意されていたのですが、これまでの人生でもトップクラスに幸福な時間だったことをご報告いたします。

◇◆◇

耐寒テスト

人間耐寒テストは聞きしに勝る凄まじいイベントでした。生半可な装備と気持ちでは参加できませんが、間違いなく一生の思い出になる貴重な体験ができます。

そこまではちょっと……という場合は人間耐寒テストではなく、夕方〜夜のしばれフェスティバルで「日本一寒い町」の寒さをカジュアルに体験するのもおすすめです。

僕もせっかくガチ耐寒装備をそろえたことですし、今後も冬の北海道を楽しんでいきたいと思います。

マルコさん

それではまた、どこかでお会いしましょう。

取材協力

しばれフェスティバル実行委員会
電話:0156-27-3990
URL:日本一寒い町陸別町_しばれフェスティバル

書いた人:マルコ(カフェオレ・ライター)

ブログ「カフェオレ・ライター」の中の人。山田井ユウキ名義でフリーライター&カメラマン。ラジオ・TV出演も。

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編集:はてな編集部