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新子焼き!塩ホルモン!豚トロetc!旭川のご当地お肉グルメを食べまくる魅惑のお肉旅と名店案内

旭川お肉旅メインカット

\ この記事の目次 /

旭川、就実の丘の様子

北海道でっけーーー!

小寺慶子さんアップ

北の大地のあまりのスケールにテンションが上がってしまい、ご挨拶が遅れました。私は肉を糧に生きる肉食系ライターこと、小寺慶子と申します。

少しだけ自己紹介をさせていただきますと、普段は雑誌やwebなどで食にまつわる記事を執筆しています。とにかく美味しいものに目がなく、仕事でもプライベートでも全国各地をめぐりながら、ローカルグルメを探すのがなによりの楽しみ。なかでも肉料理が大好きで、お肉を目指して旅することをミートリップ(肉旅)と名づけ、牛でも豚でも鶏でも羊でも「美味しい肉が食べられるなら日本全国どこへでも」をモットーに、日々ミートリップに勤しんでいます。

そんな私が、お肉の焼ける香りに引き寄せられ、訪れたのは旭川。富良野や美瑛に近く、冒頭写真の「就実の丘」のような、北海道らしい雄大な風景が楽しめる観光地として人気を集める旭川が、じつは“屈指のお肉天国”ということをご存知の方は、もしかしたら多くないかもしれません。

北海道のローカル肉グルメといえばジンギスカンが有名ですが、旭川にはほかにも独特の食肉文化が根付いており、私も初めて訪れたときは「知られざる肉グルメがこんなにあったとは!」と衝撃を受けた地なのです。

旭川空港
羽田を離陸し、約90分。旭川空港からミートリップが始まる。空港を一歩出ると、すこーんと北海道の大空が広がる。素敵なお肉に出会える予感しかない。

旅をすることは、地方の美味しいものに出会うこと。ふらりと入った酒場でその土地ならではのローカルグルメを見つけたり、地産の食材の魅力に気づいたり。そこには無限の楽しさと発見があり、旅の思い出をググッと深いものにしてくれると思っています。

さあ、前置きはこのくらいにして……、というかお腹が減ったので、知られざる肉の都を余すところなく歩き回り、焼いて焼いて焼きまくる旭川ミートリップへ出かけましょう。

※この記事は、旭川市によるスポンサードコンテンツです

旭川に来たら、これを食べなきゃ始まらない!新子焼きとチャップ焼きの極上タレ味に悶絶

旭川を訪れたなら、まずはこれを食べなくては始まりません。1軒目に訪れたのは、旭川駅から歩いて10分少々、この地で三代続く『三代目 かん太郎』。

三代目 かん太郎外観

創業はなんと昭和22年。地元っ子がこよなく愛する“気取りなき老舗”です。家族経営のなごやかな雰囲気が魅力で、長いあいだ通う常連客も多いこちらの店の名物は、旭川のソウルフードともいえる新子焼き。肉好きを自負する私ですが、旭川を訪れるまでその名前を聞いたことはありませんでした。

新子焼きとは、若鶏の半身を素焼きにした豪快な肉料理のことで、名前は出世魚として知られる新子(コハダの幼魚。コハダがさらに大きくなるとコノシロ)に由来しているのだとか。

新子焼きを焼いているところ
炭火の上で仕上げられていく鶏の半身。焦げ目の攻撃力がすごい。

戦後に旭川で生まれた豪快な焼鳥は「おいしく食べて、しっかり元気をつけて出世する」という庶民の願いが込められていたのかもしれません。

新子焼きを焼いているところを覗く小寺慶子さん
煙の向こうに1人の肉好きが。焼いてるところ、そりゃ覗くはずである。どうやら肉好きは火元に吸い寄せられる習性があるようだ。

『かん太郎』では炭のうえに大きな網をのせ、時間をかけてじっくり丁寧に肉に火を入れます。店主の吉本 巧さんが「焼き加減ひとつで味も食感も全然変わってくるんです」と言えば、ともに店を切り盛りするお連れ合いさまも「私が焼いてもこんなにジューシーにならない」と、ご主人の焼き技に惚れ込んでいる様子。ちなみにお連れ合いさまは美瑛出身で「旭川に来るまで新子焼きを知らなかったんですよ」と言います。

「僕は子どもの頃から店で父が出しているのを見ていたから、妻に新子焼きの食べかたを聞かれたときに、美瑛くらい近いところでも新子焼きは知られていないのかとカルチャーショックを受けました(笑)」と話します。

三代目 かん太郎 吉本さん
そして煙の向こうに大将の吉本さん。

絵にかいたような“おしどり夫婦”(鶏だけにね❤︎)のやりとりを見ていると、こちらも幸せな気分に。そして、いよいよお待ちかねの新子焼きが登場。

新子焼き
ある程度焼けたら、部位ごとにカットした後、自慢のタレに肉をくぐらせる。さらに少し焼くと香ばしく、ふわっとした新子焼きのできあがり。

迫力のあるビジュアルもさることながら、鼻腔をくすぐる香りにいてもたってもいられず、手づかみで頬張ると、肉の旨みと代々、受け継がれてきた香ばしいタレの風味が相まって無我夢中になる美味しさ。

新子焼きにかぶりつく小寺さん

「クリスマスは新子焼きとフライドチキンを両方買って家で食べるのが旭川の定番です」というのも納得。まだまだお腹に余裕があったので、メニューにあったチャップも注文することに。新子焼き同様にあまり耳慣れない名前ですが、こちらも旭川ではおなじみのご当地グルメで、「ポークチョップ」がなまってチャップ焼きと呼ばれるようになったそう。

三代目 かん太郎のチャップ焼き

炭火で焼かれる北海道産の豚肩ロースのステーキはしっとりと柔らかく、噛むほどに口のなかに豊かな味わいが広がります。豚肉の甘い脂とコクのあるタレはお酒にもお米にも合いそう、と思っているとお連れ合いさまが「白米のうえにタレとみじん切りにしたネギと鰹節と卵黄をのせると最高に美味しいんですよ」とニコリ。それ、今度、絶対に食べに来ます!

三代目 かん太郎内観
お店の随所にお連れ合いさまの存在感が。

三代目 かん太郎
  • 営業時間:17:30〜24:00(短縮営業中は〜22:00)
  • 定休日:日曜日(祝祭日は営業)
  • 住所:北海道旭川市3条通13丁目右1
  • 電話番号:0166-22-5244
  • 紹介メニュー:新子テリ焼き(1,400円) / チャップ(800円)
  • 今度は塩味!名物塩ホルモンで旭川のお肉の新鮮さに驚く

    旭川のミートリップはまだまだこれから!と、歩くこと、再び10分少々。やってきたのは、これまた「旭川のご当地お肉料理といえば、これ!」な塩ホルモンが美味しいと評判の『炭や』です。繁華街がぎゅぎゅっとコンパクトにまとまっていて、食べ歩きにぴったりなのも、旭川の魅力でしょう。

    『炭や』に入ると、そこは大人がくつろげる渋めな雰囲気。

    炭や店舗内観

    年季の入ったカウンターと小上がり、七輪がある店は、まずハズレません(個人調べ)。期待に胸を膨らませ、メニューを見ると大好物の脾臓が!

    「東京でつねに脾臓を扱っている店は多くないです」と言うと「旭川はもともと養豚が盛んなので、鮮度のいい肉が安定して入ってくるんです」と店長の渡部 拓さん。なるほど、旭川で塩ホルモンが定着したのは肉質に自信があるからこそなのかと納得。

    炭やのサガリと脾臓
    まず注文したのは脾臓(写真右)とサガリ(横隔膜の一部。写真左)。テラテラと輝く新鮮なホルモンは、もはやジュエリー。

    焦げないように注意しながらホルモンを焼き、熱々をそのまま。1枚ずつ焼くのももどかしいので、ここでは肉をこまめに返しながら一気に焼いていきましょう。ひと口食べればくさみはまったくなく、部位によって異なる風味や食感が際立っていることに驚くはず。私はタレのホルモンも好きですが、シンプルに塩胡椒で下味をつけ、秘伝の調味料に合わせた『炭や』の塩ホルモンとキンキンに冷えたビールの組み合わせに勝るものはそうそうないと思います。

    炭やのホルモン
    これを食べなきゃ始まらない『炭や』のホルモン。なお、ミックスホルモンのお値段は430円。美味しくて、お財布にも優しい。無限に食べられそう。

    何を注文するか迷ったら、まずは塩ホルモンと上ホルモンを合い盛りにしたミックスホルモンから。肉厚な上ホルモン(直腸)は色ツヤがよく、ふわっとした食感がクセになる脾臓も、繊維のあいだに旨みがぎゅっと詰まったサガリもすこぶる美味なので、ぜひ味わってみてくださいね。

    炭やの脾臓とホルモンが焼ける様子
    ホルモンと脾臓の鉄壁フォーメーションを組む。

    肉の鮮度が抜群なのはもちろん、クセは皆無だけれどクセになる味わいは、丁寧な仕事があればこそ。ホルモンが苦手なひとも、ここを訪れればイメージがガラリと変わるはず。

    炭やのホルモンを焼く小寺慶子さん
    ホルモンに恋した人の表情。

    渡部さんが「塩ホルモンのほかに、うちは生ラム(羊)肉も美味しいですよ」とニコリ。

    炭やの店長渡部さん
    おすすめ上手の渡部さん。なんでも頼みたくなる。

    北海道ですから、やっぱり羊もウメェ~こと間違いなし。それ、今度、絶対に食べに来ます!

    炭や
  • 営業時間:17:00~23:00(月〜土 / LO22:00) / 16:00~22:30(日・祝 / LO22:00)
  • 定休日:不定休
  • 住所:北海道旭川市五条通8丁目右3
  • 電話番号:0166-26-4303
  • 紹介メニュー:ミックスホルモン(塩ホルモン+上ホルモン:430円) / サガリ(495円) / ヒゾウ(360円)
  • 豚トロの既成概念を打ち砕く、プリプリな「ブタトロ」で初日を締める

    『炭や』で聞いた「旭川は養豚文化が盛ん」という言葉を思い出しながら向かったのは、旭川の中心地から電車でひと駅隣にある『炭火焼 味亭』。こちらは豚トロをメインに扱う焼肉店です。「豚トロなんて、全国どこでも食べられるじゃん」と思うなかれ。実は、旭川は豚トロというメニューの発祥の地でもあるのだとか。

    焼肉味亭ののれん

    だからか、店先には大きく“元祖豚トロ(塩味)の火付け役”の文字。こだわり、びんびんに感じます。初めて豚トロを食べたのはいつだったかと思い出しながら店に入ると、店主の長谷川信明さんがにこやかに出迎えてくださいました。

    焼肉味亭の店主、長谷川さん
    お肉の話となると、この表情の長谷川さん。お肉と仕事が好きなのが伝わってくるよう。

    長谷川さんは15年間、精肉店に勤めたあとに料理人のキャリアをスタート。現在の場所に移転する前に営んでいた焼肉店で懇意にしていた卸にすすめられ、豚トロの美味しさに開眼したと当時を振り返ります。「いまでこそ扱っているところも増えたけれど、その頃、豚トロはメジャーではなかったし、使わないという店が多かった。僕はもともと珍しいもの好きというのもあって、面白そうだなと思ったんです。なによりうちのような小さな店に、美味しい部位があるよと卸業者さんが声をかけてくれたのが嬉しかったんです」。

    店のメニューに豚トロを加えることを決めてからはトコトン研究を重ね、余分な脂や筋をはずして豚トロ特有のミルキーな味わいを引き出すように工夫したのだとか。採算度外視で最初は「美味しいから食べてみて」とサービスで提供することもあったといいます。カットだけではなく、14種のスパイスをブレンドした塩ダレも美味しさの決め手で「3年かけて、やっと納得できるタレを作ることができた」というエピソードも。

    焼肉味亭の豚トロのタレ

    試行錯誤の結果、生まれた“元祖の味”は豚ホルモン文化が息づく旭川で「飽きのこない美味しさ」として評判を呼び、道外からも多くのひとが訪れるように。そりゃ、わざわざ行っちゃいますよね。

    焼肉味亭の豚トロの盛り付け
    紅葉のように美しく盛り付けられたブタトロ(写真左)とジントロ(写真右)。

    端正に盛りつけられた豚トロは現在、定番のブタトロとジンギスカンの特製だれに漬けこんだジントロ、ほかにしそブタトロやゆずトロといった変化球もラインアップに加え、4種を提供しています。肉を網にのせたら火の強い中心部で片面の色が変わるまで焼き、脂が表面に浮き出てきたらさっと返して、待つことわずか。肉のぷりっとした弾力やまろやかな旨みを楽しむためにも焼きすぎないのが美味しさの秘訣です。

    焼肉味亭の豚トロが焼けるところ
    パチパチと爆ぜる脂。上がる火柱。食欲も気炎万丈なり。

    口に運ぶと、その食感はまさに「プリッッ」。適度な弾力で、食べていて心地いい……。おかしいな。豚トロってもっとぷにゅっとした歯触りだったような。脂身の入り方も実に絶妙で、しつこさがありません。長谷川さんの丹念なトリミングとカットの賜物といった味わいです。私の豚トロ観、見事にアップデートされてしまいました。

    焼肉味亭の豚トロを食べる小寺さん

    聞けば、注文があれば道外に自慢の豚トロの発送もしているそう。「ひとりでやっているから、ちょっと時間をいただくこともありますけれど、少しでも多くのひとにうちの豚トロを食べてもらいたくて」。

    一度食べたらヤミツキになる味をお取り寄せできるのも幸せ。まずは、旭川の本店でぜひ、本場の豚トロを“舌能”してみてくださいね。

    焼肉味亭
  • 営業時間:17:30〜22:30
  • 定休日:火曜日
  • 住所:北海道旭川市六条本通18-89-6
  • 電話番号:0166-32-4017
  • 紹介メニュー:ブタトロ(480円) / ジントロ(480円)
  • ◆ ◆ ◆

    今日1日巡っただけで、ノックアウト寸前まで追い詰められた私。旭川のご当地お肉料理の層が厚すぎて、はあはあしてしまいます。皆さんも、旭川が“北海道屈指の肉の都”ということをおわかりいただけたかと思います。

    もうちょっといろいろなお店に行きたい、という欲求もありますが、ミートリップに深追いは禁物。2日目に向けて、ここはいったんホテルに向かいます。欲張らずに(じゅうぶん欲張っていますが)再訪を楽しみに“宿題”を残すのも旅の楽しみ方のひとつです。

    いやしかし、旭川には魅力的なお店が多くて後ろ髪が引かれるのも事実。旭川は肉好きだけでなく、お酒好きにも大変魅力的(じつはバーの数もとても多い)な街なので、たとえば、味わいある通りに個性豊かな飲食店が立ち並ぶ「ふらりーと」で夜の散策を楽しむのもおすすめ。お肉を堪能した後、ちょっと1杯、というのも実に魅力的な旅プランです。

    それにしても、なぜ旭川にはかくも魅力的なお肉料理が多いのか。今日だけでも鶏、豚、ホルモンとさまざまな種類のお肉をいただき、かつ、味つけのバリエーションも豊富です。夜の街を歩きながら「もっと旭川の肉事情や穴場のお店について知りたい!」と思い、1971年の創業以来、地元の食肉文化の発展に貢献し続けてきた「小滝畜産」の社長に面会をお願いすると、快く受けてくれることに。翌日に備えて、宿で胃袋と体をゆっくり休めたのでした。

    旭川のふらりーとを歩く小寺さん
    しかしそれでも、ふらりーとに姿を消す。本当に宿に向かったのだろうか。

    旭川の肉食事情を探っていたら、豚トロ誕生の生き証人に出会った

    前日に美味しいお肉をたくさんいただいたからか、旭川の澄んだ空気がそうさせるのか、なんと清々しい目覚め。バスに乗って「小滝畜産」の本社を訪れると、笑顔が爽やかな小滝達也社長が「ようこそ」と出迎えてくれました。

    小滝畜産の小滝達也社長

    いきなりで恐縮ですが、旭川に多様な食肉文化があるのはなぜかと聞いてみました。

    小滝畜産の小滝達也社長アイコン

    子どもの頃から肉が身近にある環境で育ってきたので、大人になるまで旭川が特別、食肉文化が多彩だと思ったことはなかったんです。新子焼きはもう食べられましたか?

    小寺慶子さん

    以前、旭川に来たときに初めて知って、昨日もいただきました。ジューシーでとても美味しかったです。

    小滝畜産の小滝達也社長アイコン

    子どもの頃は、新子焼きも日本全国で焼鳥と同じように食べられていると思っていました。道外からお客さまがいらっしゃると、新子焼きの店にご案内することもあるのですが、皆さん、だいたい初めて聞いたとおっしゃられますね。

    小寺慶子さん

    私もそうです。旭川を訪れるまで知りませんでした……。

    小滝畜産の小滝達也社長アイコン

    もともと、自分たちが子どもの頃は、食卓に並ぶごおかずというよりお父さんの晩酌のおともというイメージがありました。新子焼きの定義をよく聞かれるのですが、定義はとくになくて、若鶏の手羽も含む半身を焼いたもののことをいうんです。半身ですから、モモとかササミとか、ボンジリも含まれる。ひとによって、それぞれ、好きな部位が違うのも面白いですよね。

    小寺慶子さん

    私は脂ノリがいいももや手羽が好きです。ところで、旭川には牛を食べる文化はあまりなかったと聞いたのですが。

    小滝畜産の小滝達也社長アイコン

    旭川といえば、昔から豚の産地ですからね。いまもと場がありますし、鮮度のいい豚肉はやっぱりとても美味しいです。お店でも家でも肉を食べるときは豚が多い。ジンギスカンも月に1〜2回は食べますよ。食文化というか習慣のようなものです(笑)。雪解けの時期になるとみんな家の庭先で焼肉をやるんです。こうした食事を「バーベキュー」なんて呼ぶようになったのは、わりと最近じゃないかな(笑)。昔から続く日常風景のひとつです。

    小寺慶子さん

    旭川の豚ホルモンは格別に美味しいですね。塩でシンプルに食べてもクセをまったく感じないし、豚トロも美味しかったです!

    小滝畜産の小滝達也社長アイコン

    豚トロは豚の頬肉ですね。旭川が発祥と言われていますが、実は私は焼肉メニューとしての豚トロ、そして「豚トロ」という名前が誕生した瞬間に立ち会っているんですよ

    小寺慶子さん

    えっすごい!

    小滝畜産の小滝達也社長アイコン

    あれは、1990年代前半だったと思います。旭川周辺のお肉業者さんの会合に参加していたのですが、そこに仲間の1人が豚の頬肉を持ってきて、「焼くと美味しいから、食べてみろ」と。そもそも、豚の頬肉はあまり量が取れない部位ですし、取れたとしても脂部分をかなりトリミングしないと売り物にならず、歩留まりが悪くほとんど流通していなかったんです。せいぜい、お肉料理屋さんの賄いに使われるくらいだったんじゃないでしょうか。

    しかし、仲間の言うように焼いて食べると、とても美味しい。豚トロという名前は、そのときなんとなく生まれた名称だったんです。この部位はサシが入っているから豚のトロ、「豚トロ」だね、豚トロって語感もよくていいねという感じで(笑)。地域によってはピートロと呼ぶところもありますが、これもそのときに「豚は英語で『ピッグ』だからピートロだね」というふうに話していたんです。

    小寺慶子さん

    そこから全国に広まったんですね。

    小滝畜産の小滝達也社長アイコン

    その会合から少しして、旭川のある焼肉屋さんが実際にメニューとして出して、いまでは日本中の焼肉店で見かけるまでに広がりましたね。旭川で肉の仕事に携わっているものとしてはとても誇りに思います。

    小寺慶子さん

    まさに歴史の証人ですね……。そして小滝畜産といえば、旭川初の食肉加工品のブランドを立ち上げたことでも有名ですね。

    「北の大手門」の製造工程
    旭川を飛び出し、全国で流通する「北の大手門」シリーズは小滝畜産の社屋内でつくられている。

    小滝畜産の小滝達也社長アイコン

    「北の大手門」シリーズですね。おかげさまでご好評いただいておりまして、いまは道内外のスーパーマーケットなどで取り扱っていただいています。塩トントロや塩ホルモン、ガーリック塩ホルモンが人気で、ご家庭で美味しく、簡単かつ安全に旭川の味を楽しんでいただけるような商品になっています。お客様から冷凍庫にストックしているという声を聞くこともあって、本当に嬉しいです。

    小寺慶子さん

    貴重なお話をありがとうございます!それで、社長。突然ですが社長が行かれる地元のおすすめ店はありますか?

    小滝畜産の小滝達也社長アイコン

    本当に突然ですね(笑)。たくさんあるけれど、パリ街にある『ふく』はいかがでしょう。先代の女将さんが考えた豚ロースの味噌漬けがあって、おでんも美味しいですよ。

    小寺慶子さん

    ありがとうございます!すぐ行きます。

    「旭川のパリ」にたたずむ地元の名店で、おもてなし精神あふれる豚の味噌漬けを

    旅を楽しむには、地元の方との交流を通して土地の魅力を知るというポイントがあります。今回、小滝社長に教えていただいた『ふく』は、現在、3代目女将の西谷さやかさんが切り盛りする炭焼きとおでんの店。その風景がまるでパリの裏路地に見えることから“パリ街”と名づけられた横丁で人気を集める店です。

    旭川のパリ街の様子
    石畳の横町には趣深い外観の食べ物屋さん、飲み屋さんがぎっしり。この一角だけ本当にパリのよう。

    観光客や一見さんが飛び込みで入ることはあまりないであろう、地元のひとに愛される穴場店。旅先で酒場探訪をするのもライフワークのひとつですが『ふく』は、店構えからして大人がくつろげる良店と確信。

    旭川のふくの外観

    扉を開けるとおでんの出汁の香りが店内を満たしています。カウンターに座ると、さっそく“三代目のママさん”が「今日は寒いですね」とにこやかに話しかけてくれます。こんな夜はおでんと熱燗でしっぽりと温まりたいところですが、まずは小滝社長おすすめの豚ロースの味噌漬けを注文します。

    ふくの豚の味噌漬けを焼くところ
    「すぐつくりますね」と女将が言うなり、焼き網の上に大ぶりな豚ロースが舞い降りる。

    「豚ロースを頼まれる方は多いですか?」とたずねると「そうですねぇ。先代のママさんがお子さんのために考えたメニューなんですけれど、味噌と醤油などをブレンドしたタレに3日間漬けこんで炭火で焼くんです。シンプルでお酒にもよく合うので常連さんにも人気です」と女将。カウンター内の大きな網にどんとのせられた豚肉の迫力に目が釘付けになっていると「豪快でしょ。うちは300g以下にならないようにカットしているんです」と女将が微笑みます。

    旭川のふくの豚の味噌漬け
    「ほんとうはね、お肉の上にキャベツを盛るの。そうしたらお客さんも『野菜も食べなきゃ』ってなるでしょ(笑)。でも、それじゃあ写真映えしないですよね。撮影用にお肉がよく見えるように盛り付けますね」と、果てしなくおもてなし精神にあふれるチャーミングな女将。

    時折、炭をならすたびにパチパチと音が立ち、酒場好きにはたまらない雰囲気。焼きあがった豚肩ロースは味噌の香りを纏っており、食欲が掻き立てられます。炭火の遠赤外線効果のなせる技か、肉はふっくらジューシー。豚肉の旨みが口いっぱいに広がり、なんとも幸せな気分に。「野菜もしっかり食べていただけるように、キャベツもたっぷりめに」と考えられた盛り付けにも旭川で長く愛される酒場の愛を感じます。行き届いたおもてなしのおかげか、開店するや、地元と思しき方が次々と暖簾をくぐります。小滝社長がおすすめするのも分かる気がする……。

    次回はぜひ、ゆっくり地元の銘酒、男山を片手にゆるりと過ごしたい。心も体もほっこりと温まり、店を出ると小雨がパラつき“パリ街”は、いっそう艶っぽく。ドラマティックな旭川を肌で感じ、再訪を心に誓ったのでした。

    ふく
  • 営業時間:18:00~24:00
  • 定休日:日曜日 / 祝祭日
  • 住所:北海道旭川市四条通6パリ街
  • 電話番号:0166-22-5086
  • 紹介メニュー:豚ロース味噌漬(1,600円)
  • コクふかあぁぁぁぁぁいッ説明不要!!旭川しょうゆホルメンだ!!!

    旭川のお肉の魅力を無限に堪能したいところですが、残念ながら時間(と胃袋の容量)は無限ではありません。飛行機の離陸時間に追い立てられますが、あと1軒、なんとかあと1軒足を運んでこの肉旅を締めたい。そして締めならば、ラーメンを1杯すすりたいところ。なにしろ旭川には魚介と豚骨のWスープで醤油ベースの旭川ラーメンがあるのだから。さらに、聞くところによると、この旭川ラーメンにこれまた旭川名物のホルモンをどさっとのせた「旭川しょうゆホルメン」なるメニューを出すお店がいくつかあるとか。これだ……。お肉旅の締めにふさわしい1杯は。

    ということで訪れたのが、北海道教育大学旭川キャンパス近くにお店を構える『羅亜~麺 加藤屋 北門本店』。

    羅亜~麺 加藤屋 北門本店の外観

    旭川しょうゆホルメンはこのお店で1、2の人気を争うメニューで、身厚の直腸をどっさりのせたスタミナ系の味にハマるひとが続出。

    旭川しょうゆホルメンをつくっているところ
    味つけされたホルモンに、ジャジャーっと中華鍋で火を入れる。この音だけで飲める。

    店主の萩中憲治さんは旭川で生まれ育ち、30歳のときにラーメンの道へ。開業当初からホルメンをメニューに加えると決めていたものの、なかなか納得できる味にならず、頭を悩ませる日々。そんなときに出合ったホルモンに「自分が求めていたのはこれだ!」と一目惚れならぬ、ひと口惚れをしたことで、ぷりっと柔らかいホルモンがたっぷりの『加藤屋』自慢のホルメンが誕生したのです。

    旭川しょうゆホルメン
    着丼したホルメン。甘辛のホルモンの香りと、スープの奥深い醤油の香りがふんわりと漂う。

    動物系の豚骨と魚介のWスープに、地元旭川の醤油を使い甘辛く仕上げた肉厚ホルモンが見事にマッチ。にんにくはごくわずかしか使わないといいますが、パンチのある味わいに仕上がっており、食べるごとに体が温まり、元気が湧いてくるよう。旭川ラーメン自体、非常にコクのある味わいですが、ここにホルモンが加わることで、さらに奥深いコクを感じさせます。週末は行列ができることがあるというのも納得です。「クセがなく弾むような食感のホルモンがなければ、このラーメンは完成しません。石狩川が近く、水がとても美味しいので雑味がないクリアなスープに仕上がるのも美味しさのポイントです」と萩中さん。

    羅亜~麺 加藤屋の萩中さん
    萩中さんは、旭川しょうゆホルメンを提供する地域のラーメン屋さん、製麺業者さんらによる「旭川しょうゆホルメン倶楽部」の代表も務める。

    豚ホルモン文化が根付く、旭川らしい“ご当地ラーメン”は、一食の価値あり。麺を食べたら、スープにライスを入れて2度楽しめるのも食いしん坊にはたまりません。旭川のお肉旅、最後の最後までお肉を堪能させてくれてありがとう、と、大満足でお店を後にしたのは言うまでもありません。

    ホルメンを食べる小寺さん
    旭川ミートリップのフィナーレを飾る1杯を前に、多分、感無量である。

    羅亜~麺 加藤屋 北門本店
  • 営業時間:11:00~14:30(LO) / 17:30~20:30(LO)
  • 定休日:火曜日
  • 住所:北海道旭川市北門町9-2644-6
  • 電話番号:0166-56-6646
  • 紹介メニュー:旭川しょうゆホルメン(950円)
  • さらば肉の都、旭川。家に帰っても忘れないよ

    名物からご当地グルメまで、実にバリエーション豊富なお肉グルメを堪能しましたが、ジンギスカン、牛焼肉など、旭川にはその他のお肉グルメの名店も軒を連ねています。まさに肉の都。ここまで「あれも食べたい!これも食べたい!」と思わせてくれるミートリップスポットは、そうはありません。気になるお店があれば、ぜひ現地でその美味しさを体験してみてください。そして、地元のひとたちとのお肉を通じた出合いは、きっと、素敵な旅の思い出として記憶と胃袋に刻まれるはず。

    私もまだまだ行きたいお店はありますが、それは次回のミートトリップの楽しみに。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。みなさんの旭川ミートリップも実り多きものになりますように! それでは、Have a Nice Meat Trip !!

    旭川ミートリップを終えた小寺さん
    旭川ミートリップを終え、心も胃袋もさぞや充実していることだろう。
    なんかごそごそする小寺さん
    なんかごそごそしだした。
    「北の大手門 塩ホルモン」を持つ小寺さん
    手には「北の大手門 塩ホルモン」が。「旭川駅前の大きなスーパーにはチルドのご当地お肉がたくさん売っていて、お土産調達に最適。家に帰るまでが……、いや、家に帰ってからもミートリップです」

    書いた人:小寺慶子

    雑誌編集を経て、現在は肉を糧に生きる肉食系フリーライター。牛、豚、鶏、麺、鮨、酒など、好物はだいたい漢字1文字、読み2文字。趣味は肉旅(ミートリップ)。ダイエットは来世から。仕事、プライベートの隔てなく日本・海外を歩き回り、食べまくり、雑誌やWebに記事を書いています。
    Instagram:koderin1224


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    編集:はてな編集部