こんにちは。ライターのカツセマサヒコです。
北海道・帯広市から東へ25キロ、中川郡池田町に来ています。
「帯広は聞いたことあるけど、池田町は知らないな」という皆さんにお伝えすると、池田町は基本的に自然いっぱい! 空気キレイ!ってかんじのところですね。
東京ドーム何個ぶんよ?ってぐらいの雪景色が広がっているので、雪を見慣れていない人たちは思わずテンションが上がってしまいますが、
不用意に飛び込むと想像以上に深くてコケるので、くれぐれも気を付けてください。
そんな池田町に何しに来たかと言うと、池田町にあるワイン工場は歴史が深すぎて、ちょっとしたインディ・ジョーンズみたくなってると聞いたからです!
なにそれ、どゆこと? 遺跡みたくなっちゃってるの? 疑問がいろいろと浮かんだので、とりあえず行ってみることにしました! 外観が要塞みたくなってて既に感動ー!
今回お話を伺うのは、池田町役場の宮澤嘉裕さんです。冒険家気分を拭えないまま、「ワイン城」こと「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」のお話を伺います。
生まれ年のワインと出会える「熟成室」
あまり聞いたことがないですね。
あれ、そうなの。
でも、見てもらえれば何かその由来がわかるかもしれないですね。まずは地下2階のワインの熟成室を見に行きましょうか。
ドーン!!!!
めちゃくちゃ数ありますね!?
こちらでは樽熟成、ビン熟成、スパークリングワイン製造を行っています。かなり古くから現在までのワインが揃っていますよ。
歴史感じるー……!
カツセさんは今、おいくつですか?
30歳です。
あ、じゃあこちらに生まれ年のワインがありますね。
え! 本当ですか!
わー! 本当だ!! 1986年があった!!!
年季が入ったボトル。文字は少しかすれて、表面にはカビが生えている。
「清見 1986」の文字。完全に僕と同い年。
ここにあるボトルワインも一度は販売していたのですが、その後研究用として保存されたものです。味を確かめるため、我々もたまに飲むことがありますよ。
30年前のものを飲むって、普通に考えるとちょっと怖くないですか……ワインすごいな……。
熟成させると、尖った味をしたワインもまろやかになったり、香りが強くなったりするんですよ。
こちらは熟成樽。樽の中央部分が紅くなっているのは、ワインが漏れている証拠。酸化しないよう樽いっぱいにワインをそそぐため、蒸発したぶんをどんどん継ぎ足していった結果なのだそうだ。
熟成期間は、長ければ長いほどいいんですか?
いえ、ワインのポテンシャルに左右されるので、ピークが早く来るものも中にはありますよ。
おお、そうなんですね。
池田町などの寒い地域で収穫されるブドウは、酸味が強いワインが作れるんです。そういうワインは熟成させるほど酸味が和らぐので、寝かせたほうが辛口かつマイルドな味わいになるんですよ。
なるほどー! ちなみに、たとえば僕の年齢のワインだったら、市場に出たらどれくらいの金額がするんですか?
基本的に販売はしていないのでなんとも言えないですが、万単位は確実だと思います。
おおー!!
当時の市販価格に年数ごとにプラスいくら、という計算だと思うんですが、イベント等でオークションをやると、3万円とか5万円で買われる方もいらっしゃいますね。
(俺も、寝てるだけで価値が上がったらいいのになあ……)
ここって、自治体が経営してるんですよね? 税金集めてワイン作ってるって、普通に考えたらちょっとしたクレームものじゃないですか?
普通は民間企業か第三セクターが作りますよね。でもこのワイナリーは53~4年前からずっと町営です。池田町は元々、農業を中心にした町だったんですが、1952年に「十勝沖地震」が起きて、大変な被害を受けたわけです。
そんな悲劇が……。
しかもその翌年からは、二年連続で冷害・凶作が続いて、復旧作業のために財政赤字になってしまったんですよ。
三年連続で悲惨すぎる。
そこで「自治体がどうにかするしかない」となって、ワイン造りを始めたんです。今では役場の財政とは完全に切り離して、このワイナリーの従業員のお給料も、すべてワインの売り上げだけで成り立たせているんですよ。
すげー!!
「シャンパンの造り方」を日本でもっとも早く取り入れたワイナリーだった
ヴィンテージワインに続いて、スパークリングワインの案内をしていただく。
カツセさんは、シャンパンとスパークリングワインの違いをご存じですか?
えっと、スパークリングワインは炭酸を後から足してて、シャンパンは内側から炭酸を発生させているんじゃなかったでしたっけ。
大体はそのとおりです。シャンパンはワインを二次発酵させることでじっくりと炭酸を造っていくんですね。そのため、スパークリングワインよりも炭酸が中に溶け込んでいるぶん、気が抜けにくいんですよ。
だからシャンパンのほうが価値が高いとされてるんですかね。結婚式のときにシャンパンが出されるかスパークリングワインが出されるかで、格がわかるって、式場で働く友人が言ってましたよ。
そうですね。そしてこの工場は、日本で初めてシャンパンと同じ方法を取り入れてスパークリングを造ったんですよ。
それって、国産初のシャンパンってことですか?!
いえ、違います。
違うんかい。
「シャンパン」はあくまでもフランスのシャンパーニュ地方で造られたものにしか付けられない名前なんです。だからうちのワインも、造り方はシャンパンと同じですけど、厳密には「スパークリングワイン」なんですね。
なるほどー!!
でも、味自体はシャンパンなので、ほかのスパークリングと比べたら、うちのが断然おいしいです。
しっかりとPRしてきますね。
発酵中のワインは、放置するとブドウの濁りが出てしまうため、日々少しずつ回転させているそうだ。
そして濁りを先端に集めたところで冷凍させて、濁りのない部分だけを抽出するという。
めちゃくちゃ手間がかかってますねー……。
ここはあくまでも見学用なので手動でお見せしていますが、今は機械で自動的に動かしています。まあ、それでも時間はかかりますね。
ここからがインディ・ジョーンズ! さらに古い酒蔵庫へ……!
「もっと見せたいものがあるんです」と言われて、一度外に出て、別館へ。ここからは、一般客は踏み込めないエリアらしい。
次にご覧いただくのは、先ほどよりももっと古い酒蔵庫です。
あれより古いところがあるんですか。
ええ。さすがに驚くと思いますよ。ここならインディ・ジョーンズと言われても納得できます。
建て付けの悪い扉を開け、中に進むと、異常に薄暗い階段。
下まで降りると、真っ暗で何も見えない。
電気つけますね。
はい、ぜひお願いします。
パチンッ
おおー!
ここではさらに古いワインを眠らせているんです。こっち見てください。
うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!
完全にインディ・ジョーンズやーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!
すごいでしょう? ここらへんのものは1977年製ですね。最古で1960年代のものまで、2万本ほどあります。ここまで古い酒蔵庫は日本でも珍しいと思いますよ。
超びっくりしました! 完全に遺跡ですよここ! クリスタル・スカルとかいくらでも出てきそうな雰囲気じゃないですか!
まだお見せしたいものがあるんですよ。
まだあるの!? テーマパークか何かですかここは!
「最高にカッコイイ父親になる方法」がここにあった
そして重い扉をあけて案内されたのは、意外なほどに小綺麗な部屋。あの古代遺跡の部屋と扉ひとつでこんなに雰囲気が変わるとか、映画の世界か。
ここは何の部屋なんですか? 間違った扉を開けると無数の毒矢が飛んでくるやつ??
そこまでエンタメ性に富んでません。
そうですよねー。
ここは個人のワイン保管庫なんです。月額500円でレンタルできるんですよ。
おおーなるほどーーー! でも、なんでわざわざここで保管を……?
熟成させるにあたって、適した温度・湿度で保管するのをご自宅でやるのは大変ですよね。だからここで倉庫を貸して、保管しているんです。
そうかあ。セレブな発想だなあ……。
いえ、そんなこともないですよ?
え、だってワインを熟成させるような余裕、毎日必死に生きてる一般人には到底できないじゃないですか?
不敵な笑みを見せる宮澤さん
たとえば、ここは僕が個人的に借りている倉庫なんですが……。
おお、ワインがぎっしりですね?
僕はここで、妻と結婚した年のワインと、子どもたちの生まれ年のワインを保管しているんです。
めちゃくちゃロマンチックー!!!!!!!!!
父親としてできることって限られていると思うんですが、子どもたちが成人を迎えたときには、何かひとつくらい、親らしい顔をしたいなあと思って。
ワインの1本や2本だったらそこまで値段はしないし、じっくり20年、子どもたちが大人になるのを楽しみに待てる。それって未来に希望が持てませんか?
宮澤さん……なんでそんな、イケメンすぎる発想を……。
単純にお酒が好きだからでしょうか。結婚記念日のたびにワインを飲んだり、子どもたちとグラスを鳴らす日が来るのを楽しみにしたり。それが自分にとっての喜びなんですよね。好きな人と飲むお酒、おいしいじゃないですか。
だめ。もう最高すぎてつらい。
おわりに
こうして「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」の見学が終わりました。
日本で初めて自治体が運営したワイナリーであり、日本で初めてシャンパーニュ製法で作ったスパークリングワインがあり、日本でも数少ない歴史を持った酒蔵庫であるこの場所で、ジェントルマンすぎる宮澤さんに会うことができました。
ブランデーもスパークリングもワインもブドウジュースも作っているので、ワイン好き、お酒好きの方でなくても十分楽しめるスポット。「結婚式に向けてなにかサプライズしたいな」と考えている男性が倉庫をレンタルしに来るのもよさそうですし、父親になった暁に訪れるのもよさそう。そして20年後、「お前が生まれた年にな……」とか言ってこの場所を案内されたら、子ども絶対感動して泣くでしょ。
「わざわざ北海道まで行く」という距離感がまた最高なロケーション。
ぜひ一度遊びにいってみてください!!
池田町ブドウ・ブドウ酒研究所(ワイン城)
●住所:北海道中川郡池田町字清美83-4
●電話:015-572-2467
●営業時間:9:00~17:00
●休館日:年末年始
●URL:http://www.tokachi-wine.com/
(写真:和崎 愛)
書いた人:カツセマサヒコ
下北沢のWeb系編集プロダクション 株式会社プレスラボのライター・編集として、書く・話す・企画することを中心に活動中。 趣味はツイッターとスマホの充電。
Twitter:@katsuse_m
宮澤さん、本日はよろしくお願いします! この城、インディ・ジョーンズみたいなところがあるって聞いたんですけど、本当ですか!