早起きはサーモンの徳!
Yorimichi AIRDOをご覧の皆さま、はじめまして。サーモン中尾です。
サーモンを愛するがあまり全日本サーモン協会を設立し、南米チリ共和国にてサーモンの養殖・加工指導を経験。その後サーモン解体師として全国各地を行脚する…。
そんなわたしがついに行って参りました。 鮭の国! 北海道!
今回向かったのは、日本有数の水揚げ量を誇る鮭の産地、標津(しべつ)町と斜里(しゃり)町です。
え、場所が分からない?
鮭の目が標津町、鼻先が斜里町になります。
果たしてどんな鮭が待ち受けているのか...いざ、AIRDOの飛行機で女満別空港へ。空港から標津町へ…ってあれ?
何この緑あふれる感じ…本当に鮭が、いるの?
どこかにサーモンピンクが見えないかなぁと思いながら、車を走らせること約2時間…。
ようやく到着!
ここが、サーモンの聖地として名高い「標津サーモン科学館」です。
標津町という小さな街の中で一際目立つ、立派な建物…。
あれ? もしかして、この街、サーモンに乗っ取られてる…!?
とにかく、館長で水産科学博士でもある市村政樹さんにお話をうかがってみましょう。
(※ここでは主に天然ものを「鮭」、養殖ものを「サーモン」と呼んでいます)
小さい頃から魚が好きで、小学校の卒業アルバムに「夢は鮭の研究者」と書きました。
生まれながらにして鮭に乗っ取られていたんですね…。私は南米チリのサーモンの養殖現場で働くうち、いつの間にか鮭に傾倒していました。
鮭はその美しい容姿や生態はもちろん、食や釣りの対象として、どれをとっても人を魅了してくるよね。
あらゆる面でポテンシャルの高いサーモン
サーモンは非常にポテンシャルの高い魚なんです。与えるエサによっても違いますが,マグロの場合は大体10kg以上の餌(魚)をあげてようやく1kg大きく育ちますが、サーモンなら約3kg位の餌(魚)で1kg大きくなるんです。
私も以前は仕事でマグロの養殖や水揚げをやっていましたが、チリで養殖サーモンにかかわって、サーモンの圧倒的なポテンシャルの高さに気が付きました。
美容食品としても注目を浴びていますね。鮭の身の赤色は高い抗酸化作用があるアスタキサンチンが豊富に含まれています。
味が良いのはもちろん、健康・美容にもよく、ストライプがこの上なくインスタ映えし、しかも養殖効率が良い。人類のために生まれてくれた「神の魚」なのかと思ってしまいます。そういえば鮭はアイヌ語でカムイチェプ(神の魚)と言われていましたね…。
養殖サーモン VS 天然鮭
そもそも養殖サーモンと天然の鮭を同じカテゴリで比べられないよね。養殖サーモンは脂が乗っていて中とろ〜大トロ、天然の鮭は赤身〜中とろのイメージ。風味も違えば楽しみ方も違います。
あっさり塩ラーメンとこってり豚骨ラーメンくらい違いますよね。
魚本来の風味や旨味は天然の鮭の方が強いし、昔ながらの塩蔵・乾燥などの身を熟成させる方法は天然の鮭の方が向いていますよね。養殖サーモンは脂が多いから、塩蔵すると脂ヤケしてしまう。
塩辛くて脂の少ない焼き鮭もうまい。天然の方が、人の手が加わっていない分ワイルドな味わいですよね。「魚を食べている」という感覚が強いです。
そもそも館長の一番好きな鮭鱒は何ですか?
食べて好きなのは、サクラマス*1の脂の乗りが良い11月以降もの。小さくてもうまい。
サクラマスはもっと注目されるべき魚ですよね! 海に住んでいて、脂ものっているのに川魚扱いされがち。”サクラマス”ではなく”サクラサケ”という名前だったら語感的にももっと注目されてたかも。
今後、サーモン科学館が目指すところを教えてください。
ここを通して、皆さんにもっと鮭に興味を持ってもらいたいですね。実は水産会社の人でも鮭について誤解している人もいます。例えば、成熟まで間のある紅鮭の中には脂が乗っていてサシも入ることもあります。少しピンクっぽい見た目になるのですが、身の色だけで「これは紅鮭じゃない」と言われることもあります。
紅鮭は赤過ぎて、消費者から「着色料を使い過ぎじゃないか」「健康を害するのではないか」と言われたこともあります。天然で魚本来の色、むしろ美容・健康にいいものなのに…。
味、生態、いろいろな切り口で皆さんの興味を刺激したいですね。ちなみに、当館は鮭の解剖実習もやっていて、これも来館者の受けがいいです。
私も毎月サーモン解体ショーを都内でやっていますが、若い人からの人気も高く、魚食の入り口にもなる。サーモンのあり余る魅力を面白く、分かりやすく伝えていくことは我々のミッションですね!
盛り上がり過ぎて鮭事情の対談だけで終わってしまいそうなので、途中で切り上げ、館内を案内していただきました。
幻のサケ科魚類のイトウ*2もこんなにたくさん。しかも餌やりができるんです! 活きがいいですね。
サーモンマニアなら、どれだけ水しぶきをかけられても鮭が元気だと喜んでしまうもの。
当然この水しぶきもサケずに受け止めマス!
サメに噛まれてみよう
次にサーモン科学館の名物コーナー「チョウザメの”指パク”体験」へ。
チョウザメという名前だけど、サメと違って歯が一本もなく、噛まれても痛くないらしい。
鋭いサーモンの歯になんども噛まれ、血を流してきた私。おそるおそる水槽に手を入れると…
バクッ!!
餌と勘違いしたチョウザメが勢いよく食らいつく。だけどまったく痛くない!
顔の下のヒゲをレーダーにして貝類、エビ、昆虫の幼虫などを探し出し、あとはそのまま丸のみしているそうです。
お腹を空かしているのにごめんな、俺の指で…。
ちなみに館長ともなると、大型チョウザメの「腕パク」になります。
「パクッ」なんて生やさしいものじゃなく、「バゴォォン!!」みたいな音で、結構ビビる。館長いわく腕パクはさすがに痛いそうです。それこそ突き指してしまうこともあるんだとか(通常は「指パク」のみ体験できます)。
鮭の餌も展示されてる
(※サーモンマニアと鮭博士の会話なので、どこか話がズレています)
こちら「流氷の天使」とも呼ばれるクリオネです。自然界では、鮭に餌としてよく食べられているやつですね。
お、活きの良い鮭の餌まで展示されているんですね!
ちなみにシロザケは他のサケ科魚類よりもクリオネの捕食率が高いんですよ。
だから鮭釣りの疑似餌はクリオネのような形でもつくられているのか! そう言われると、このクリオネ、うまそうに見えてきた…。
水族館の人気者を発見! しかし…
『ファインディングニモ』で話題になったカクレクマノミも展示しています。
サーモンがメイン過ぎて、普通の水族館ならそこそこ人気のクマノミもひっそり奥に展示されている…。
まぁ、メインはあくまでサーモンですので…なんかすみませんね。笑
でもこのクマノミの柄、よく見たらサーモンっぽいですよね! 切り身のアトランティックサーモンに擬態しているのかな?(んなわけない)
サーモン科学館公式キャラは「イクラちゃん」
こちらは標津サーモン科学館の公式キャラクター「イクラちゃん」です。
見よ、この一切の無駄を省いたスタイルを…。
日本で一番ゆるい,ゆるキャラを目指してつくりました。
目があるだけで、かろうじてキャラクターと呼べる状態に。
機能性を追求し複雑化しつづける日本になんだか物言いたげな、そんな表情で語りかけてくれマス(なんだかかわいく見えてきた…かも?)。
サーモン好きにはたまらない、ずっと居られるこの環境…。
実は私、水中のサーモンも好きなのですが、テーブルの上のサーモンも、大好きなんですよ。
都会じゃまず食べられない! マニアックなサーモン料理を堪能
サーモン科学館に涙の別れを告げ、やってきたのは、「標津で鮭を食べるならココ」と館長にすすめられた「郷土料理 武田」。
まず、市村館長もオススメの「鮭のしゃぶしゃぶ」をいただきましょう。
食べる前からにやけが止まりませんね…。
見よ、この色の変化を…! 口に入れた瞬間、鮭の旨味が広がり、トロけていきます。
実はこの鮭しゃぶ、私個人としても鉄板メニューで、読者の皆さんもぜひ自宅で試していただきたい(強調)。
ここだけの話、タピオカミルクティーの次は間違いなく「鮭しゃぶ」がきますよ。
お次は名物メニュー「幻の鮭・鱒ルイベ味比べ」。
ルイベとはアイヌ料理の一種で、凍らせた刺身です。天然の鮭には寄生虫(アニサキス)が潜んでいる可能性があり、寄生虫を死滅させるために一度凍らせる必要があるのです。
まずはシロサケ。あっさりした、養殖サーモンとは違う、強い魚の風味が特徴です。続いて鮮やかな桜の色をしたサクラマス。こちらはほんのり脂が乗っていて、奥深い旨味を楽しめます。
そしてなんと、幻の鮭「鮭児*3」までご用意していただきました。たしかに鮭児は脂が乗っていてうまい! しかし「時しらず*4」も負けず劣らずうまい。魚ごとの微妙な風味の違いを楽しむ、これこそが鮭の醍醐味(だいごみ)です。
産まれた川から大海原へ渡り、荒波に抗って生きてきた天然の鮭のロマンを噛みしめる。これが明日の自分への活力になるんです…。
こちらは白子のルイベ。
臭みもなく、濃厚でうまい…都会じゃまず食べられない逸品です。白子もそうですが、鮭って捨てるところがないんですよね。
お次は、鮭が本当に捨てるところが無いことを証明する、鮭の珍味三点盛り。
サーモンダイ(問題)です!
こちら、全て鮭からつくられた料理ですが、それぞれどこの部位だか分かりますか?
答えはこちら!
どれも癖はありますが、ハマる人はとことんハマる。滋味深い味わいが特徴です。
チリのサーモン加工場に勤めていた頃、「あの日本人、内臓を生で食ってるよ…クレイジー」と現地の方に揶揄されながら、内臓の塩辛をつくって食べていたことを思い出してしまいますね…。
ところで、せっかく鮭料理を堪能しているのに、大事なものを忘れていると思いませんか?
これです、これ(サケ)!
塩辛い鮭の珍味を食べると、自ずと辛口の酒がすすんでしまいますね。
言わずもがな”鮭”と”酒”の相性は抜群! 個人的に、天然の鮭には辛口の酒が、養殖のサーモンには甘口の酒が合うと思います。
今回、女将の武田敬子さんにもお話をうかがえました!
「ウチは地元で獲れた天然の鮭にこだわっています。当店の鮭で標津がもっと盛り上がってほしいと思っています。標津は場所も都市部から離れていて、出て行く人が多い土地なので…」
鮭の聖地といっても過言ではないほど魅力的な場所なのに…。また鮭のように生まれた地に戻ってきてほしいですね。私は毎年来ることに決めました!
草木をかき分け、知る人ぞ知る鮭スポットへ…
腹も満たされて、あとは寝るだけ…。宿泊地へ向かう途中、何もない道を走っていると、突如マップに現れた「鮭の頭」。
いやいや、こんなところに鮭の頭があるはずないでしょ、と思いながらも、サーモンマニアのアンテナがピンピン。
この高揚感! 張りサケそうなこの気持ち!
ってあれ…? 場所はここで合っているはずなのですが…。
こんなところに鮭の頭があるのでしょうか…。
草木と虫をかき分け、暗闇の中を進んでいくとそこには....
!!!!
ありました。
暗闇の中に突如現れた巨大なオブジェ。
これまで何万尾と鮭を見てきましたが、こんなに大きな鮭ははじめてです。若干ホラーですが、思わず駆けつけ、抱きしめてしまいました。
ちなみにこの鮭の頭、一説によると、もともと町内にあった鮮魚店のオブジェとして使われていたもので、地権者の方が譲り受けてここに置いたそう。
地球の裏側にはこいつの尻尾が出ているのではないでしょうか。
“御婦人たち”が切り盛りする名物食堂
早起きはサーモンの徳!(2回目)
サーモンピンクの目をこす擦りながら、朝からダッシュで斜里町へ向かいます。
昨夜、夢に鮭の頭が現れ、こうささやいたんです。
「斜里には、新たな鮭スポットがある。早起きして行ってみよ」
鮭の頭の導きに従い、朝早くから車を走らせています。
そして着いたのは「ウトロ漁協婦人部食堂」。
昨日の夜から8時間も鮭を食べておらず、そろそろ我慢できない私。
まだか、まだなのか....
いてもたってもいられず、鮭・いくら丼を注文しました。
鮭の導き、きたああああああああああああああああああああ!
イクラは鮭と並ぶ、サーモン中尾の大好物なのです。
I like Ikura....アイ ライク イクラ!!
これくらいのいくらなら、いくらでもいける!!!
スーパーに売っているものとは一味も二味も違う、濃厚な風味がたまりません。
うおおおおおおおおおおおおおおおお
解放せよ! 鮭に対する欲望を、解放せよ!
ああ、素材の質が突き抜けているからこその、シンプルな味わい…(恍惚)
サーモン科学館のイクラちゃんが身をもって伝えようとしていた飾りっ気のない生き様。
それはこういうことだったんですね…?
従業員の皆さんとサーモンスマイル。店名の通り、御婦人のみで切り盛りされていました。
早朝からありがとうございます!
大切な人に6万円の鮭土産はいかが
お腹を満たしたらお土産でしょう。
ということで、ウトロ婦人部食堂にほど近い、漁協直販の「ごっこや」さんにおじゃましました。
知床ならではの鮭商品が盛りだくさん!!
なんと、昨日いただいた鮭児も“証明書付き”で売っているのです。
ちなみにお値段なんと6万6千円! お土産にはちょっと荷が重いですが、大切なあの人へ、とっておきのプレゼントにいかがでしょう。
そのほか、鮭マニアにはたまらない商品もたくさん売られています。
例えばこちら!
鮭贈答用の化粧箱です。なんて秀逸なデザイン…これはほしい。
お土産もしこたま買いこみ、満足したところで次のお店に向かいましょう。
続いて向かったのは、道の駅 しゃりにある「知床キッチン 熊湖」。知床の海の幸が手軽に、かつ新鮮な状態でいただける地域の名店です。
横川料理長いわく、お店のオススメは「知床五湖丼」と「サクラマス定食」。おそらくこれが旅のラストサーモン。どっちにしよう、これは悩ましい…。
知床五湖丼には鮭親子漬も乗っていて、なんといってもホタテとサーモンのグラデーションが最高にインスタ映え! 旅の最後を飾るメニューとしては申し分ありませんが…
サクラマス定食のような焼き魚をまだいただいていないので、ここらで定番に落ち着いてもいい。香ばしい皮を大根おろし、醤油と一緒に噛みしめる。これもたまらないでしょう…。
よし、決めた!!
両方いただきマス!!(サンモン芝居ですみません…)
天然サクラマスの懐かしい風味、そしてワイルドな香ばしさ。
知床五湖丼の養殖サーモン(知床五湖丼)は鮭親子漬と合わせても激ウマで、脂の旨味と風味がブーストされます。
食べ比べるとそれぞれの違いが分かり、より楽しめますね。
それにしてもサーモンって、焼いても、生でも、スモークでも、蒸しても、しゃぶしゃぶでもうまい!
どんな環境にも適応する、ここまでコミュニケーション能力が高い魚って他にいますか?
さて、そろそろ満腹に近づいたところで…
「知床キッチン 熊湖」に隣接する物産店「野尻正武商店」へおじゃましました。
ここでは獲れたての鮭や鱒がそのまま売られています!
鮭のパラダイスかよ…。
しかも1.5kgのオホーツクサーモン(カラフトマス)が1尾で1,000円という超特価。毎日ランチで丸焼きが食べられるじゃないか…。
ます白子なんてたまたま半額になっていて、25円。
読者の皆さんもご存じのように、鮭鱒は内臓、頭、中骨、皮、どこも捨てるところがないくらいうまいんです。でもこうした商品は流通価格も低く、売ってもそこまで利益は上がりません…。ほとんど商売にならなくても、こうやって販売していただける店舗には本当に頭が下がります。
マジでかんしゃ…マジで感鮭ですよね…。
感謝の気持ちでお腹も胸もいっぱいになったところで、今回の旅は終了になりマス。
次北海道に行くときは鮭の知識を増やして、もっともっと楽しめるようになりたいです。なんだかまるで、力をつけて生まれた川へ戻る鮭のようだ。サモありなん。
皆さんも、北海道で鮭まみれの旅、してみませんか…?
撮影:小高雅也
書いた人:サーモン中尾
チリ共和国最南部でサーモンの養殖・加工指導を経験し、ノルウェー等海外現地からも直接サーモンを買い付ける全日本サーモン協会の代表。
日本唯一のサーモン解体師になるためにクラウドファンディングも実施中じゃけぇ!
Twitter:@salmongarage
ブログ:サーモンガレッジ
新鮮なサーモンを楽しめる知床に行くならAIRDOで!
www.airdo.jp
編集:はてな編集部
そもそも、なぜサーモンの研究者になろうと思ったんですか?